防災士で元消防士の石川です。最近、企業の総務担当者から「非常食の備蓄って法律で決まってるんですか?」という質問を多く受けます。結論から言うと、東京都では条例によって従業員分の3日間の備蓄が努力義務となっています。

出典:ぱくたそ(フリー素材)
でも、実際に何をどれだけ備蓄すればいいのか、どこに置けばいいのか、費用はどのくらいかかるのか。こうした具体的な疑問にお答えしながら、実践的な備蓄計画の立て方をご紹介します。
企業に非常食の備蓄義務はあるのか?


2013年に施行された「東京都帰宅困難者対策条例」が、企業の備蓄義務の根拠となっています。この条例では、都内の事業者に対して従業員の3日分の食料・飲料水・その他必要物資の備蓄を努力義務として定めています。
対象となるのは東京都内にある事業所で、規模に関係なくほぼすべての企業が対象です。つまり、従業員が5人の会社でも、1000人の大企業でも同じように備蓄の努力義務があります。
「努力義務」とは法的強制力はないものの、可能な限り実施することが求められる義務です。罰則はありませんが、BCP(事業継続計画)の観点から実質的に必須と考えるべきでしょう。

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東京都以外でも、神奈川県、千葉県、埼玉県などで同様の条例が制定されています。特に首都圏で事業を展開している企業なら、いずれかの条例に該当する可能性が高いです。
私が防災コンサルタントとして企業を訪問する際、よく「罰則がないなら備蓄しなくても大丈夫ですよね?」と聞かれます。しかし、災害時に従業員の安全を守れない企業は、社会的信頼を大きく失うリスクがあります。また、取引先からBCP対応を求められるケースも増えています。
具体的に何をどれだけ備蓄すればいい?
条例で定められた「3日分の備蓄」の具体的な内容を見ていきましょう。基本的には、大規模災害時に従業員が3日間オフィスに滞在できる分の物資が必要です。
水:1人1日3L × 3日分 = 9L

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飲料水は1人1日3リットルが基準です。これは飲み水だけでなく、簡単な調理や手洗いなどに使用する分も含まれています。500mlのペットボトルなら1人あたり18本が必要になります。
私の経験では、実際の災害時は予想以上に水を消費します。特に夏場の災害では熱中症対策として、冬場でも暖房が使えない状況で体を温めるために温かい飲み物が必要になります。可能であれば少し多めに備蓄することをお勧めします。
食料:1人1日3食 × 3日分 = 9食
食料については、1人1日3食×3日分で合計9食分が基準です。ただし、これは最低限の基準であり、実際の業務を継続しながら滞在することを考えると、もう少し充実させる必要があります。
おすすめの食料構成は以下の通りです:
- アルファ米(お湯または水で戻せるご飯):4食分
- 缶詰(おかず系):3缶
- パンの缶詰またはクラッカー:2食分
- 栄養補助食品(カロリーメイト等):適量
その他必要物資
食料・水以外にも以下の物資が必要です:
- 毛布またはアルミブランケット:1人1枚
- 簡易トイレ:1人1日5回×3日=15回分
- 救急用品:包帯、消毒液、常備薬など
- 懐中電灯・ラジオ:共用で数個
- ヘルメットまたは防災頭巾:1人1個
従業員100人の会社の場合、必要な備蓄量は以下のようになります:
従業員100人の企業の備蓄例
・飲料水:900L(500mlボトル1,800本)
・アルファ米:400食
・缶詰:300缶
・パン缶詰:200缶
・毛布:100枚
・簡易トイレ:1,500回分
・推定費用:約150〜200万円(初期導入時)
備蓄品の選び方(企業向けのポイント)

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企業の備蓄品選びは、家庭用とは大きく異なるポイントがあります。多様な従業員のニーズに対応しつつ、コスト管理も重要になってきます。
アレルギー対応は必須

企業の備蓄で最も重要なのがアレルギー対応です。特に小麦、そば、卵、乳製品、えび・かにの7大アレルゲンに配慮した食品の準備が必要です。
私がコンサルティングを行った企業では、従業員にアレルギー調査を実施して、その結果を基に備蓄品を選定しています。全体の約1割程度をアレルギー対応食品にするのが一般的な配分です。
アレルギー対応食品は通常の非常食より割高になりますが、従業員の命に関わる問題です。「多様性への配慮」として企業価値向上にもつながります。
宗教的配慮(ハラール対応等)
グローバル化が進む現在、外国人従業員への配慮も重要です。特にイスラム教徒の従業員がいる場合はハラール認証を受けた食品の準備を検討してください。
ハラール対応の非常食は最近増えており、アルファ米やレトルトカレーなども選択肢があります。全体の5〜10%程度をこうした対応食品にしておくと安心です。
コスト管理(ローリングストック vs 長期保存)


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企業の備蓄では、ランニングコストの管理が重要な課題です。大きく分けて2つのアプローチがあります。
①ローリングストック方式
賞味期限3〜5年の食品を定期的に入れ替える方法です。入れ替えた食品は従業員に配布したり、防災訓練で使用したりします。年間のランニングコストは備蓄品総額の約20〜30%になります。
②長期保存方式
賞味期限10〜25年の超長期保存食品を使用する方法です。初期費用は高くなりますが、ランニングコストは大幅に削減できます。大企業でよく採用されています。
コスト比較例(従業員100人・10年間)
・ローリングストック方式:初期200万円 + 年間50万円 = 総額700万円
・長期保存方式:初期350万円 + 年間5万円 = 総額400万円
備蓄品の保管場所と管理方法

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備蓄品をどこに保管するかは、企業規模や建物の構造によって大きく変わります。重要なのは災害時にアクセスしやすく、かつ災害で破損しにくい場所を選ぶことです。
理想的な保管場所の条件は以下の通りです:
- 直射日光が当たらない
- 温度変化が少ない(15〜25度が理想)
- 湿度が低い(60%以下)
- 従業員がアクセスしやすい
- 耐震性が高い
多くの企業では、各フロアの給湯室や会議室の一角、または専用の備蓄倉庫を設置しています。私がお勧めするのは分散保管です。1箇所にまとめて保管すると、その場所が使えなくなった時に全ての備蓄品が無駄になってしまいます。
管理方法については、以下のような台帳を作成して定期的にチェックすることが重要です:
備蓄品管理台帳の項目例
・品目名・保管場所・数量・賞味期限・購入日・購入価格・次回チェック日・担当者・備考
年に2回程度の定期点検を行い、賞味期限が近づいた食品は計画的に入れ替えを行います。この作業を忘れがちな企業が多いので、カレンダーにリマインダーを設定しておくことをお勧めします。
助成金・補助金制度の活用

企業の防災対策には各種の助成金・補助金制度が用意されています。これらを上手く活用することで、初期費用を大幅に削減できます。
主な制度をご紹介します:
①東京都帰宅困難者対策推進事業助成金
東京都内の中小企業が対象で、備蓄品購入費用の2分の1(上限100万円)が助成されます。申請期間が限られているので、東京都のホームページで最新情報を確認してください。
②BCP策定支援事業
各自治体で実施されている事業で、BCP策定費用の一部が助成されます。備蓄計画もBCPの一部として対象になる場合があります。
③小規模事業者持続化補助金
直接的な防災対策補助金ではありませんが、「従業員の安全確保による事業継続」として申請できる場合があります。
補助金の申請には時間がかかることが多く、また予算枠に限りがあります。年度初めに情報収集を行い、早めに申請準備を進めることが重要です。
私がサポートした企業では、これらの制度を活用して初期費用を50〜70%削減できたケースもあります。申請書類の作成には専門知識が必要な場合もあるので、不安な場合は防災コンサルタントに相談することをお勧めします。
よくある質問(Q&A)

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企業の防災担当者からよく受ける質問をまとめました。実際の導入前に疑問を解消しておきましょう。
Q: 備蓄しないと罰則はありますか?
A: 東京都帰宅困難者対策条例では罰則は規定されていません。ただし、災害時に従業員の安全を守れなかった場合の企業責任や社会的信用失墜のリスクは非常に大きいです。また、取引先からBCP対応を求められるケースも増えており、事実上必須と考えるべきでしょう。
Q: 何年ごとに入れ替えが必要ですか?
A: 一般的な非常食の賞味期限は3〜5年です。ただし、商品によって大きく異なるので、購入時に確認が必要です。最近は25年保存できる超長期保存食品もありますが、価格は高めです。定期的な管理台帳チェックで、賞味期限の6ヶ月前には入れ替え計画を立てることをお勧めします。
Q: 備蓄品の費用は経費で落とせますか?
A: はい、従業員の安全確保のための備蓄品は「福利厚生費」として経費計上できます。また、BCP対策の一環として「事業継続のための必要経費」としても計上可能です。ただし、税務署によって判断が分かれる場合もあるので、事前に税理士に相談することをお勧めします。
Q: テレワーク中心でもオフィスに備蓄は必要ですか?
A: テレワークが中心でも、災害時には従業員がオフィスに避難してくる可能性があります。また、災害の規模によってはテレワーク環境も使えなくなり、オフィスでの業務継続が必要になる場合もあります。最低限、想定される最大滞在人数分の備蓄は準備しておくべきでしょう。
テレワーク企業の備蓄計算例
従業員100人、通常出社率30%の場合
→ 災害時想定滞在者:50人程度
→ 50人×3日分の備蓄を準備
Q: 備蓄品の品質管理はどうすればいいですか?
A: 年2回の定期点検が基本です。春と秋の年2回、賞味期限・包装の破損・保管環境をチェックします。特に夏場の高温多湿期間後は、保管状態が劣化している可能性があるので、秋の点検は重要です。また、新入社員の入社時期に合わせて備蓄量の見直しも行いましょう。
Q: 備蓄品を実際に使う訓練は必要ですか?
A: 絶対に必要です。災害時に初めて非常食を食べる状況では、食べ方が分からなかったり、想像と味が違って食べられなかったりする問題が起きます。年1回の防災訓練で実際に備蓄品を使った食事体験を行うことをお勧めします。これにより、賞味期限が近い食品の消費もできて一石二鳥です。
まとめ(チェックリスト)
企業の非常食備蓄について、重要なポイントをチェックリスト形式でまとめました。自社の備蓄状況を確認する際にご活用ください。
企業備蓄チェックリスト
- 該当する条例・規則の確認ができている
- 従業員数に基づいた必要備蓄量を算出している
- 水:1人1日3L×3日分=9L以上を確保
- 食料:1人1日3食×3日分=9食以上を確保
- 毛布・簡易トイレ・救急用品を準備している
- アレルギー対応食品を全体の10%以上準備している
- 外国人従業員への配慮(ハラール等)ができている
- 保管場所が適切で分散保管している
- 備蓄品管理台帳を作成し定期チェックしている
- 年2回以上の定期点検を実施している
- 賞味期限管理とローテーション計画がある
- 防災訓練で実際に備蓄品を使用している
- 助成金・補助金制度の活用を検討している
- 備蓄費用の予算計画ができている
- BCP(事業継続計画)と連携している
すべてのチェック項目を満たすのは大変ですが、段階的に整備していくことが重要です。まずは最低限の備蓄から始めて、徐々に充実させていくアプローチがお勧めです。
防災対策は「いつか起こるかもしれない災害」への投資と思われがちですが、実際には従業員の安心感向上や企業の信頼性向上という日常的なメリットもあります。また、取引先からのBCP対応要求に応えることで、ビジネス機会の拡大にもつながります。
備蓄品の選定や保管方法でお悩みの場合は、専門業者に相談することをお勧めします。SmileLife Inc.では、企業向けの防災備蓄品を豊富に取り揃えており、アレルギー対応食品や長期保存食品も充実しています。
災害はいつ起こるか分かりません。「備えあれば憂いなし」の精神で、今日から企業の防災備蓄を始めてみてください。従業員とその家族の安全を守ることが、結果として企業の持続的な成長につながります。
何かご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。皆様の企業防災対策を全力でサポートいたします。
